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コラム

Dropboxの創業者ドリュー・ヒューストン | マサチューセッツ工科大 卒業式スピーチ

MITに戻ってこれたことをとても嬉しく思っています。

私は今でも毎日、ブラス・ラット(MITの卒業記念の指輪)をしています。この指輪を手にした瞬間は、今でも人生の中で最も誇らしかった瞬間です。

なぜ、この日がこれ程特別なのか。それには、沢山の理由があります。

私が強調したいのは、私達は初めてその日から採点されることがなくなることです。ここまでの何十年かは、人生での成功とは、バスケットボールでジャンプシュートを決めたり、テストでいい点を取ったり、大学に入ったり、授業を取ったり、学位を取ったりすることでした。

全てが今日変わります。人生をプランする中で大変なのは、”ここからどこへ行くのかわからない、でもできるだけ早くゴールにたどり着きたい”ということです。

会社を起こすかもしれないし、癌の治療法を見つけるかもしれない、もしかしたら偉大なアメリカの小説家になれるかもしれない。そして気づくのです。「とんでもない失敗をするかもしれない。」と。

当時は私にも全く人生プランはありませんでした。7年前には、私自身がここで今日、操業のローブを着て、皆さんの前でスピーチすることなど計画していませんでしたしね。

実際のところ、私はこれまで一度も、人生の壮大な計画を作ったことなどありませんでした。
おそらくいまになってわかりますが、”卒業の前に人生のプランを立てておけ”というのが無理なのでしょう。

今日から皆が歩む人生においてできる差とは、いったい何なのかをずっと考えていました。もし私にもう一度人生があるとしたら、また同じことを最初からするだろうと。

皆さんがここにいる理由は、皆さんが賢く、一生懸命やってきたからだと思います。しかし誰も”これから変化していくんだ”ということを教えてはくれません。

だからこそ、ここで私が、あなた達に”成功へのカンニングペーパー”をプレゼントします。

これこそが私自身が卒業式に貰いたかったものです。この私の”成功へのカンニングペーパー”にはそれ程たくさんのことは書かれていません。

そこにある言葉は”テニスボール”、”サークル”、数字の”30,000”です。

確かにこのままでは意味不明ですよね。でも、もうちょっとだけこの話に我慢して下さいよ。

私は21歳の時に最初の会社を、Chili's(ファミレス)で立ち上げました。共同設立者のAndrwe Crickと私は、今まで会社を立ち上げたことなどなかったのです。

だから、市役所へはスーツを着ていかなきゃならないのかな?重要書類に捺印するのに社印が必要なのかな?など心配していました。
でも、実際はオンラインで記入して送信するだけ、ほんの一瞬で終わったのです。

なんの盛り上がりもありませんでしたが、とにかく、ビジネスはスタートしました。オニオンリングを食べながら、自分達の会社でSAT(アメリカのセンター試験のようなもの)のためのオンライン講座を開設することにしました。

当時は、古めかしい800ページもある本を使って勉強しており、他社のオンライン講座はあまりよくなかったからです。
私達は、「Accolade」と名づけました。

Accoladeは、SAT独特の単語で、「名誉、栄光」という意味です。

そして、実際の社名にも、The Accolade Group,LLCと名づけました。この名前はイケてると思っていました。
その帰り道、Staples(文房具屋の名前)により、名刺プリント用紙を買いました。

ビジネスをするにあたって、最も重要なこと、フォトショップでロゴを作って、「創業者」と名刺に印刷することですよね。

次は、カンファレンスでそれをみんなに配る。

そして女の子に「そうさ、僕は会社をやってるんだぜ。」って言うことでしたから。とてもたのしかったです。

一番楽しかったのは新しいことを学べたことでした。毎年夏はフラタニティハウス(MIT学生・卒業生のサークル)で過ごしました。
そして家の5階には屋根へと上がれる梯子がありました。

私は屋根の上にナイロンの緑色の椅子と、Amazonで買い貯めたビジネス書を読むことで毎週末過ごしていました。

マーケティング、セールス、マネジメント、その他にもたくさんの、私の知らなかったことを学びました。
もちろん、MBAをPhi Delta Theta(フラタニティハウスの名前)の屋根の上で勉強するなんてことも私の人生プランには含まれていませんでした。でもそんなことをしていました。

数年後、事態は悪化し始めました。もっともっと力をこめて、船を漕ぎ進めないといけないと感じ、そしてある時にハジけて、もうこんな、午前3時45分メンフィス発の電車の問題や、平行線に関する数学の問題を解いたりしてられないと思っていました。

自分自身の何かが狂っていたのです。やるべきことをできない自分に憤りました。起業は長年の夢でした、そして、そう、”つまり多分僕はこんなことむいてないんだ”と思いました。なので私は少し休暇をとることにしました。

もし、皆さんがコース6(コンピュータサイエンスの授業)を取っていたなら、”休暇をとる”というのは”ポーカーボット(ボーカーを自動でやるプログラム)”を書くことと同じだと分かりますよね。

ポーカーボットを知らない人のために説明しますと、まずオンラインポーカーは、長時間パソコンの前に座ってたくさんクリックして、そしてお金が無くなっていくものですよね。ポーカーボットとは、コンピューターがあなたの変わりにポーカーをしてくれて、お金が無くなっていくものです。

でも、本当に夢中になれるものでした。無我夢中でした。シャワー中でも、真夜中でもポーカーボットのことばかり考えていました。当然私自身のスイッチが恩になったように、私はポーカーボット開発マシーンになったのです。

こんなある時、両親がニューハンプシャーのコテージで週末を過ごそう、と言ってきました。でも、私はポーカーボットの開発を続けたかった。だから、ホンダアコードのトランクを開けて、自分のコンピュータとワイヤーを積み込んで、コンピュータを全て小さなコテージに担ぎこんだのです。

ダイニングルームのテーブルは少し小さかったので、やかん、フライパンを全部どかせて、コンロの上を私のモニタールームにしていました。
母は、私はそのうち刑務所行きだと覚悟したそうです。

ここでちょっと話が逸れますが、私は両親には多大な迷惑をかけました。ここにいる皆さんも、皆さんのご両親に沢山心配をかけたはずです。なのでこれまで皆さんをサポートしてくれた両親、大切な人達に感謝しましょう。ありがとう。

好きなことを仕事にしなさい、と言おうと思ったのですが、その言葉は実はあまり意味がないんです。
なぜなら、みんな、今やっていることが自分のすきなことだと、簡単に思い込んでしまうからです。誰も、自分が嫌いなことをやっているなんておもいたくないものですよね?

公考えてみると、”最も幸せで成功している人たち”は”自分の好きなことをしている人”という訳じゃないんです。
”自分にとってのチャレンジを攻略することに夢中になっている人”で、その人にとっては、それがとても大切なことなのです。

そんな人たちは、”テニスボールを追いかける犬”に似ています。
そんな人達の目は狂気を宿しているほどです。リードを振り払って、駆け出し、何があっても、ボールを追いかけます。私の友人にも、沢山働いて沢山お金を稼いでいる人はいます。

でもみんな、仕事机に縛られているみたいだと愚痴をこぼします。問題は、多くの人が、すぐには自分のテニスボールを見つけられないということです。

誤解しないでくださいね、私も、私の次にスピーチする人と同じように標準的な試験も好きですよ。

でも、SAT試験対策講座の覇者になることは私のテニスボールではなかったのです。びっくりすることですが、ポーカーボットとDropboxは、気分転換でやっていた遊びです。

当時のメインの仕事中でも、頭の中では小さな声が「こうすればいいポーカーボットができるよ」と囁いてきますが、いつだって僕は「黙ってろ、仕事ができないだろ」と言って、その声を黙らせていました。
でもその頭の中の小さな声が、一番正しいんですよね。

これを理解するのには時間がかかりましたが、でも、人が一生懸命働けるというのは、人より優れているからという訳ではないのです。
問題を解決するのが楽しいから一生懸命働くのです。だから今からは、自分自身を追い詰め、一生懸命やるのではなく、自分自身を惹きつけるテニスボールを見つけるのです。

時間がかかるかもしれません、でも見つかるまでは自分の声に耳を傾け続けて下さい。

さて、私が卒業してすぐの夏の話に戻りましょう。皆さんにもこの夏がやってきます。フラタニティ・ブラザーのAdam Smith(アダム・スミス)と、彼の友人Matt Brezina(マット・ブレジーナ)が会社を始めました。

私は、1つのアパートで、みんな一緒に働けば、きっと面白いことになるだろうと思いました。最高の夏でした。いえ、”ほぼ最高”の夏でした。

エアコンが潰れていて、ボクサーパンツだけを着て、プログラミングをしていましたからね。

アダムとマットは一日中仕事をしていました。

そんなあるとき、アダムとマットが言うのです。「ちょっと投資家に会ってくるよ。ビジネスの秘訣を教えてもらって、ヘリコプターに乗せてもらうんだ!」

私は少し嫉妬しましたよ。私はその時点で自分の会社を数年やっていました。でもアダムはまだほんの2ヶ月です。「俺のヘリコプターどこだよ!」ってね。そして事態はどんどん悪い方向へ進みます。

8月も過ぎていき、アダムから悪い知らせを持ってきました。アダムたちが引っ越すと言いだしたのです。しかも、シリコンバレーに僕は置いてけぼりの気分でした。

彼らは本格的に動き始めました。そして私はまだ....。しばらくしてからアダムに電話して、近況を聞いてみました。

”全てうまくいってるよ、今日はVinod(ビノッド・コースラ)に会ったんだ。と言うのです。

ビノッド・コースラは大金持ちの投資家でサインマイクロシステムズの共同設立者です。そしてアダムは僕に特大の爆弾発言を投下しました。
”彼が僕らに500万ドル投資してくれるんだ”ってね。

私もとても嬉しかったのですが、反面ショックでもありました。アダムは気の置けない飲み仲間で、フラタニティの弟分、2歳年下です。言い訳できない。

アダムはスーパー、ボウル、私はドラフトにも選ばれていない、と。(アメフトの例え)

アダムは気づいていないと思いますが、わたしにとっては、目覚めのキックだったのです。私が自分を変えるときだったのです。

”あなたの価値は、自分と一緒に過ごす人の5人の平均値で決まる”とよく言われます。

少しだけ考えてみて下さい。
あなたのサークルにいる5人は誰ですか?

あなたに良いニュースがあります。

MITはあなたのサークルを作るのに世界で最も優れた場所の1つなのです。もし私がMITにいなかったらアダムに出会っておらず、私の素晴らしい共同創業者:アラシュにも出会っておらず、Dropboxも生まれていなかったでしょう。

自分に刺激を与えてくれる人と一緒に過ごすということは、自分に才能があることや一生懸命に仕事をすることと同じくらいに大切である、と学びました。

もし、マイケル・ジョーダンがNBAにいなかったら?

もし彼のサークルの5人がイタリアのかっこいい男達だったら?

あなたのサークルの人達が自分を高めてくれるのです。アダムが私にそうしてくれたように。これからは皆さんの周りのサークルは広がっていきます。同僚や周囲に住む人々。

どこに住むかはとても重要です。MITは世界にひとつだけ、ハリウッドも、シリコンバレーも世界にひとつだけの場所です。自分がどの道に進もうとも、それは偶然ではありません。

その道には必ずその道の最高の人達が集まる場所があるのです。その場所に行くべきです。

他の場所で落ち着いてしまってはいけません。自分の尊敬する人たちと出会い、彼らから学べることはとても大きなメリットなのです。尊敬する人達が自分のサークルの一部になるのです。そして彼らから学んで下さい。

卒業後に陥りやすい最後の罠は”準備が整っている”ということです。

誤解しないでください。学び続けることは最も重要なことです。でも、”実際にする”ことが最も早く学ぶ道なのです。なにか夢を持っていて、その夢のために、一生をかけて学び、計画し、準備をしながら過ごすこともできます。

でも今皆さんがしなければならないのは始めることです。僕だって、今まで一度も”準備万端”だったことなどありません。

投資家たちが「分かった出資しよう、どこにお金を送金すればいい?」と言った日を覚えています。24歳だった僕にとって、それはもうクリスマスみたいなものでした。

クリスマスプレゼントを開けるみたいに、bankfamerica.com(銀行のサイト)にアクセスし、会社の口座残高が60ドルから120万ドルになる瞬間を逃がすまいと、更新ボタンをひたすらクリックしていました。

最初は有頂天でした。
”残高にコンマが2個もついてる!(100万ドル以上)、そこで変な感じがしたのです。ある時この金を返せって言われるってことだよな?僕は今何をしようとしているんだ?って。

皆さんもこのような話を知っているはずです。MITではこれを”消防ホースから酒を飲む”と言います。

こんな言葉を聴くだけでも楽しくなってしまいます。でも、酒を飲んだ後、胃の中が内出血でボロボロになっていることに気づくのです。

それでも、いい面があるということを知ることもできます。今日、また一つその”ホース”のバルブは閉まってしまいました。次は、皆さんが、別の”ホース”を見つける番なのです。

わたしにとってDropboxがその”ホース”でした。皆さんの想像通り、この会社を立ち上げた時のことは、今までの人生で一番興奮した、楽しくて、満たされた経験でした。

でも僕が言いたいことは、それと同時に最も辛く、苦しく、恥をかき、イライラした経験でもあるということです。これまでにした失敗の数は数え切れないほどです。

幸運にも、失敗はそれほど問題ではありません。誰にも、オール5のパーフェクトな人生を過ごすことはできません。実際、卒業したら、皆さんのGPA(学校の成績)なんて関係なくなります。

ビル・ゲイツの最初の会社は信号を操作するソフトウェアを作っていました。スティーブ・ジョブズは最初の会社では無料で話ができるプラスチックの笛を作っていました。

とちらも失敗でした。でも、彼らがそんなことで悔やんでいるなんてことないでしょう。

今日を変えることは私が最も好きなことです。これからは、失敗はたいした問題ではありません。人生でたった一度、正しければそれでいいのです。

昔は僕も失敗ばかりしていました。そんな僕が、自分の心配性を直したのはこんなことがきっかけです。サンフランシスコに移ったばかりのある夜、眠れずにインターネットを見ていました。

そんなとき、”あなたの人生は30,000日”という言葉を見つけました。
最初は深く考えなかったのですが、なんとなく計算機で24歳×365日と打ち込みました。なんてこったもう9,000日近く終わっちゃってる!
今まで何をやっていたんだ!と思いました。ちなみに皆さんは8000日使っていますよ。

さあこれが”成功へのカンニングペーパー”に”30,000”と書かれていた理由です。その夜、”もう準備をしている暇なんてない、練習は終わりだ、リセットボタンなんて無いんだ”と思いました。

毎日、私たちは少しずつ自分の人生の物語を綴っていきます。そして、いつか死ぬ日の物語は”ドリュ-ココに眠る、かれは174番目に死にました”などという文章ではないはずです。だから僕は人生をパーフェクトにするのではなく、おもしろい人生にしようと。

自分の人生の物語をアドベンチャーにしたいのです。その気持ちが他人との差となるのです。祖母が今日、ここに来ています。
来週は95歳の誕生日をみんなで祝うことにしています。

以前、カリフォルニアに引越したことる言葉があります。

祖母がいつも電話の最後に言う言葉”Excelsior(エクセルシオール)”。

これは”常に向上心を持って”という意味です。

そして今日、皆さんの卒業式、あなたの

完璧な人生を歩むのではなく、冒険するために、自分を自由にしておくこと、常に向上心を持って。

藤原和博氏セミナー「親は子供に何を残せるのか」

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